名寄帳とは? 請求できる人や取得方法、不動産調査に必要
1、名寄帳とはどういうもの?
日常生活で名寄帳について見聞きする機会はあまりないと思われますので、どういったものなのか解説します。
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(1)名寄帳とは
名寄帳は、地方税法の規定により作成される帳簿です。
「市町村は、その市町村内の土地及び家屋について、固定資産課税台帳に基づいて、総務省令で定めるところによって、土地名寄帳及び家屋名寄帳を備えなければならない。」(地方税法第387条第1項)
このように、市町村ごとに土地や家屋の情報をまとめたものが名寄帳です。
自治体ごとに「土地・家屋名寄帳」「固定資産課税台帳(名寄帳)」など名称が異なることもありますが、「名寄帳」といえばどこの役所でも通じます。固定資産税課税台帳には
- 所有者の氏名・住所
- 不動産の属性(地番・地目・地積/家屋番号・構造・床面積など)
- 固定資産税評価額
- 固定資産税課税標準額
- 固定資産税額
が記載されていますが、名寄帳は固定資産税課税台帳から特定の人が所有する不動産を抽出してこれらの情報を一覧化したものです。
なお、名寄帳とは別に固定資産評価証明書というものもありますが、これは不動産ごとの固定資産評価額についての証明目的で発行されるものです。
固定資産税評価証明書は、たとえば、遺産分割後に不動産の登記名義を変更する際、登録免許税の算定に必要となります。 -
(2)相続時に名寄帳の確認をおすすめする理由
名寄帳には、その市区町村内で特定の人が所有する不動産を調べることができるため、相続財産の調査で有用です。
なお、固定資産税の納税義務者に毎年送付される固定資産税の課税明細書には、固定資産税の課税対象外の不動産は記載されません。
その点、名寄帳は課税の有無や登記・未登記を問わず、すべての不動産に関する情報が記載されます。自宅以外に不動産はないと思われているケースでも、自宅の敷地に隣接する私道や実家近くに山林を所有していたということがないわけではありません。
私道などの非課税物件や資産価値が低い免税物件は相続で見落としがちなので、名寄帳による確認をおすすめします。
2、名寄帳の取得方法
名寄帳はどのようにして取得するのか解説します。
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(1)名寄帳を取得できる人
名寄帳は個人の資産に関する情報が記載されているため、基本的に所有者(納税義務者)本人や本人から委任された代理人、本人が亡くなった場合は相続人でなければ交付申請できません。
本人以外が交付申請する際に添付しなければならない書類は次のとおりです。
① 相続人が申請する場合
- 亡くなった方との関係が分かる戸籍謄本
- 亡くなった方の除籍謄本
- 申請する相続人の本人確認ができる書類
② 代理人が申請する場合
- 委任者が署名・押印した委任状
- 代理人の本人確認ができる書類
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(2)申請先・申請方法
名寄帳は市区町村ごとに作成されているため、不動産の所在地の市区町村役場の固定資産税を取り扱う部署に申請します。
なお、東京都区部では東京都税事務所(もしくは都税証明郵送受付センター)が、一部の政令指定都市(大阪市、さいたま市、札幌市など)では各市税事務所が取り扱うため、事前にホームページや電話で確認されることをおすすめします。
交付申請は窓口で行うこともできますが、郵送でも可能です。
手数料として、所有者1名ごとに300円前後が必要とされていることが多いようですが、自治体により異なるため、郵送で申請する場合は事前の確認が必要です。 -
(3)名寄帳の注意点
固定資産税は1月1日現在の所有者に課税されることから、固定資産税課税台帳には1月1日現在の情報が登録されています。
たとえば、2月に取得したり売却したりした不動産については、翌年1月1日まで、その取得・売却の結果が名寄帳には反映されないことになります。また、法人名義で所有している不動産は、亡くなった方個人の名寄帳には記載されません。
法人が所有している不動産は遺産分割の対象にはなりませんが、亡くなった方が代表者として1人で経営していた法人が所有していた不動産などは、次の代表者となった方がなんとかしないといけないので、新たに法人の代表者となった方は、法人名義の不動産の名寄帳を取得して法人の所有する不動産を確認することもできます。
3、相続財産の調査が不十分だった場合に起こりうる問題
相続財産が十分に調査されていないと、遺産分割協議後に新たな相続財産が発見されるという事態が起こります。
以下では、そのような場合の対処法を解説します。
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(1)新たな相続財産が発見された場合の基本的な対処法
すでに遺産分割協議を終えた後に新たな相続財産が発見された場合は、新たな相続財産について遺産分割協議を行うのが基本的な解決方法です。
なお、先に行った遺産分割協議で新たな相続財産が発見された際の分割方法の取り決めがある場合は、基本的にはその取り決めに従うことになるでしょうが、全くそうした相続財産の存在を念頭に置かずに遺産分割を行った場合には、必ずしも、先に行った遺産分割の取り決めどおりになるとは限りません。遺産分割は、判明した遺産についてのみ行い、新たに発見された遺産は、発見されたときに分割するというのがやはり基本でしょう。
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(2)遺産分割のやり直しになるケース
いったん有効に成立した遺産分割協議は原則としてやり直すことはできません。
しかし、次のように、例外的に遺産分割のやり直しが認められるケースもあります。① 相続人全員の合意がある場合
遺産分割後であっても、相続人全員の合意があれば遺産分割をやり直すことは自由にできます。
しかし、遺産分割のやり直しにより第三者の権利を害することはできません。たとえば、遺産分割により取得した不動産をすでに売却している場合、その売却を取り消して遺産分割をやり直すことはできません。
また、合意による遺産分割のやり直しにより財産のやり取りは、税法上は贈与や譲渡とみなされて、すでに納税した税金に加えて贈与税や不動産取得税などの課税対象となることにも注意が必要です。② 遺産分割後に重要な相続財産が発見された場合
遺産分割後に新たな相続財産が発見された場合は、その財産についてあらためて遺産分割協議を行うのが原則です。
しかし、新たな相続財産が相続財産全体からみて重要なものである場合、先に行った遺産分割は、重要な要素について認識を誤った上で成立させたことになり得ます。つまり、相続財産の総額が500万円である場合と3000万円である場合とでは、遺産分割における判断に違いが生じるのは当然ともいえます。
このような認識の齟齬は、民法上の「錯誤」に該当する可能性があり、先に行った遺産分割での意思表示を取り消すことができる場合があります(民法95条)。
このような錯誤により遺産分割の合意が取り消されると、遺産分割はさかのぼって無効となるため、あらためて遺産分割協議を行うことになります。この場合、すでに申告した相続税との差額について修正申告や更正の請求をしなければなりません。
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(3)新たな債務が発見された場合はどうなる?
亡くなった方に借金などの債務がある場合は、財産と同様に相続することになります。
亡くなった方が他人の借金の保証人になっていたケースでは、債権が焦げ付いて債権者から請求を受けることがきっかけで債務の存在を認識することも少なくありません。
借金などの債務は、プラスの財産とは異なり、相続人間で誰が債務を負担するのか取り決めをしても、債権者にはそれを主張することはできません。相続人の目線では、多くの相続財産を取得した人に請求してほしいと言いたくもなりますが、債権者は各相続人に対して法定相続分に応じて返済を求めることができるのです。
借金などの債務を相続したくない場合は、相続放棄や限定承認(相続財産を超える債務は負担しない)をするほかありませんが、これらの手続きは相続の開始を知った時(通常は被相続人が亡くなった時)から3か月以内に行う必要があります。
また、相続財産を処分したり消費したりした場合は、原則として、相続放棄や限定承認はできなくなります。
4、名寄帳の取り寄せ以外にもある! 相続財産調査でやるべきこと
ここまで不動産の財産調査に関して解説しましたが、当然のことながら他の財産についても調査は必要です。主な財産の調査方法について解説します。
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(1)預貯金や株式などの金融資産
預貯金は、通帳やキャッシュカードが遺品の中にあることで判明することもありますが、近年はインターネット上で口座を開設するケースも増えています。
また、株式取引などで金融機関に口座を開設している場合、年間取引報告書などの書類が送付されることもありますが、電子交付により書類が発行されないこともあります。そのため、パソコンやスマートフォンの使用状況やアプリも入念に調査することが必要です。
なお、株式取引に関しては「証券保管振替機構(ほふり)」に証券口座の開設先を照会する方法もあります。
また、預貯金の入出金履歴により、別の金融資産や固定資産税の納付先などの手掛かりが得られることもあるため、その意味でも預貯金の調査はしっかり行う必要があります。 -
(2)絵画や貴金属、家財道具などの動産
亡くなった方が所有していた物品は、すべて相続財産となります。
絵画や骨とう品、貴金属のように高価な物だけではなく、文房具や書籍、パソコン、衣類、家具なども相続財産です。また、現金やペットも、分類としては動産として扱われます。これらの動産は、遺産分割協議により分割方法を決めるまで勝手に処分することはできません。
しかし、動産の中には、長期間の保管に適さないものもあれば、処分費用のほうが高くつくようなものもあり、実際には形見分けにより事実上分配されることも少なくありません。
形見分けにより相続財産を分配する場合は、あくまでも他の相続人が異を唱えない限度で行うことになります。 -
(3)借金などの債務
ローンの契約書やクレジットカード、利用明細書などにより借入先を特定して債務残高を問い合わせます。
なお、銀行や貸金業者、クレジット会社が加盟する信用情報機関に照会して債務を網羅的に調べる方法もあります。信用情報機関は
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
の3機関があるため、これらのすべてに照会するとより確実です。
なお、債務の調査で見落としがちなものは保証人になっているケースです。
保証人となった履歴は信用情報機関に登録される場合とされない場合があるため、契約書などをくまなく調べる必要があります。