遺言代用信託のメリットや注意点
信託で遺産の受取人を指定
相続が発生すると、相続人が遺産の分け方について話し合う遺産分割協議を行いますが、信託した財産は遺産分割協議の対象から外すことができます。そのため、遺言代用信託をした金銭については、被相続人が望むように、特定の人に確実に遺産を引き継ぐことができる、というわけです。
よく似た言葉で「遺言信託」という仕組みもありますが、これは遺言書の保管や遺言の執行までを金融機関に信託するもので、内容は大きく異なります。遺言代用信託は遺言信託より低コストで、手軽に利用できるのが特徴です。
遺留分の侵害はできない
ただし、すべて思いどおりに分配できるわけではありません。遺言代用信託で信託できる財産は金銭等に限られ、不動産や有価証券を信託することはできません。
また、配偶者、子、両親などには、最低限の相続財産を受け取れる「遺留分」があります。
遺言代用信託においても、それを侵害することはできません。例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者には遺産の4分の1、子どもには各自8分の1ずつの遺留分があります。
これを侵害すると、遺留分が請求され、トラブルになる可能性があります。遺留分を侵害するような遺言代用信託の設定は、実質的にはできないことになっています。
遺産分割を待たずにお金が引き出せる
遺言代用信託には、被相続人が亡くなったときに即座にお金を引き出せる、という特徴もあります。
銀行の預金口座などは、預金者が死亡すると口座が凍結され、原則として遺産分割協議がまとまるまでお金を引き出すことができません。これでは、葬儀などにかかるお金や、配偶者の生活費に困ることにもなりかねません。
遺言代用信託で金銭を信託しておけば、遺産分割協議を待たず、指定された人が簡単な手続きでお金を引き出すことができます。
似たような制度としては、2019年の民法改正で創設された、遺産の分割前における預貯金の仮払い制度があります。
相続開始後に金融機関に戸籍等の一定の書類を提出することで最大150万円(各金融機関ごと)まで、遺産分割協議を経ずに預貯金を引き出すことができる制度です。引き出せる金額に上限があるため、仮払いでは不足してしまう金額があるかどうかは事前に検討しておく必要があります。