節税目的の養子縁組は違法?

1 相続税の計算方法

相続税は、遺産の課税価格から、遺産に係る基礎控除額を控除した残額の額について発生します。

基礎控除額は、現在の法令では、3000万円に法定相続人1人当たり600万円を加算した額とされています(相続税法15条1項)。
例えば、相続人が実子1人の場合には、基礎控除額は3600万円になります。

ここで、例えば、その孫を養子にしたときに、法定相続人が2人になり、基礎控除額が、さらに600万円増え、4200万円となるのか、という問題です。

この点については、そもそもそのような節税目的の縁組は民法上有効なのか、そして、民法上有効としても、税務上の観点でも控除を受けることができるのか、検討する必要があります。

2 民法上の縁組の要件

養子縁組は、「縁組意思」、つまり、「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」が存在しなければ無効と考えられています(民法802条、最一小判昭和23年12月23日民集2巻14号493頁)。

古い事案では、芸者として働かせるための養子縁組をした事例について、「縁組意思」を否定し、無効とした判例もあります。

では、節税目的の養子縁組は、この「縁組意思」を満たすのでしょうか。
孫を養子にした節税目的の養子縁組の有効性が争われた最高裁判決(最三小判平成29年1月31日民集71巻1号48頁)では、「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」として、当該事案で、縁組意思を認めました。

つまり、節税目的が主な動機だったとしても、その孫を養子とすることについて、縁組をする意思がはっきりしていれば、有効となるということです。

一方で、まったくの赤の他人を、節税目的だけで縁組をした場合には、やはり、無効となる可能性が高いと思われます。

 

3 税務上の観点

民法上、養子縁組が有効だったとしても、無限に基礎控除額が増えることを防止するため、税務上、1人当たり600万の控除額を受けることができる養子の人数については、次のような制限があります。

  • 被相続人に実の子供がいる場合
    一人までです(相続税法15条2項1号)。
  • 被相続人に実の子供がいない場合
    二人までです(相続税法15条2項2号)。
  • ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記の養子の数に含めることはできません。

親族が誰も文句を言わなかったとしても、相続開始後、税務署との関係で、「相続税の負担を不当に減少させる結果となる」かどうか、交渉することになります。

 

4 他の相続人の相続分や遺留分に影響も

養子縁組をすると、子が1人増えることになります。法律上、実子と養子に相続分や遺留分に違いはありません。

したがって、実子である相続人と養子が、遺産をめぐってトラブルになる可能性もあります。実際のところ、他の相続人の相続分を減少させることを動機として、養子縁組をすることは少なくありません。

5 まとめ

節税目的が動機だったとしても、それだけで無効となるものではありませんが、他の親族にも影響を与える重要な問題ですので、なぜ、その人と縁組をするのか、きちんと整理して縁組を行いましょう。

また、相続後のトラブルを避けるために、遺言書などで、死後の争いがないよう整理をすることが重要です。